POESIUM studium of poetics and art

詩学研究室 ポエジウム

◆詩学講座【詩学序章編】講義抄録 第1講~第7講〈全〉

■第1講 「詩的」なるもの――オブジェクティブな心象・言葉・物象

1.「詩的」なるものとは何か

  ・「詩的」なるものの本質を問う学問としての「詩学 Poetics」
   詩の歴史と一般的認識、現在の学術的背景について
  ・「詩性 Poesy」を初期化する
   「詩」から、「詩的」なるものに立ち戻る

2.「詩的」なるもの=Poesy が顕れるとき

  ・詩的瞬間、詩的体験、詩的光景、詩的言語、詩的作品...

   「詩的」なるものの捉え直しの試みを、参考資料とともに考察。

3.「詩的」なるものとその感受

  ・Subjective 主体、主観的世界、目的運営される世界
   /Objective 客体、自然的世界、ありのままの物象世界
  ・主(主体、主観、経験的我)/客(客体、客観、他者)
   その未分 - 分化 - 合一のエレメント
  ・Khronos 物理的「時間」/Kairos 内在的「時刻」
  ・散文的(自我・表現的)/詩的(非我・享受的)
  ・精神/自然
   その未分 - 分化 - 合一のエレメント
   近代精神と、とりまく世界

  上記項目について、哲学・思想および芸術家の引用とともに解説。

 

■第2講 詩をめぐる言葉(1)詩性・詩の原理について

1.「詩性 Poesy」、詩の原理についての諸概念

  ・散文的/詩的
  ・悟性/詩性
  ・世界把握/世界の拡大
  ・自然と精神の未分・合一状態、交感
  ・有限(特殊)の世界に現われた無限(普遍)
  ・遠く隔たったものの交感、不一致なるものの一致
  ・驚き、驚異の原理
  ・詩的感官、脱自態、不意の受動
  ・存在触知、根源的感覚
  ・超越論的夢想 ...

2.詩をめぐる言葉――詩性・詩の原理について

  ・「不意に=pre sur prise」・偶然・驚異・超=把握
  ・有限のなかの永遠なるもの・詩的瞬間
  ・自然と精神の合一
  ・反対物の一致・矛盾の一致
  ・詩における新奇さ
  ・超越論的我(超経験的我)
  ・野性・未開・幼年
  ・言語と世界

  上記項目について、哲学・思想および芸術家の言葉を引用解説。
  (サラ・ムーン、オクタビオ・パス、ジョン・キーツ、ガストン・バシュラール、
  イヴ・ボヌフォワ、ノヴァリス、スタール夫人、シェリング瀧口修造種村季弘
  アポリネール、ラフォルグ、シェリー、フーゴ・バル、ランボー、ブレイク、
  ヘルダーリンボードレールブルトンアガンベンマラルメ阿部良雄 他)

  補足として、「近代以降の主な芸術理論」を解説。
  無我、非知、脱自などの「無」「非」「脱」といった概念に代わる、
  「超」という概念の(ドイツ観念論の同一哲学を基底とした)可能性をメモ。


■第3講 詩をめぐる言葉(2)創作と衝動について

1.詩性と創作についての諸概念

  「詩 Poesie」の語源、「ポイエーシス Poiesis(ギ)」=「作ること、創作」。
  「学問(スコラ) schola」の語源、「スコーレ Skhole」=「閑暇」。

  「美学」の「美」≠ Beauty
  「美学」(aesthetics/英)(バウムガルテン .G.Baumgarten,1714-62 による)
  「感性」を表すギリシャ語から作ったラテン語の造語「Aesthetica」に由来。
  「感性」=美や善などの評価判断に関する印象の内包的な意味を知覚する能力。
       非言語的、無意識的、直感的。
       認識論では悟性の対極にあって受動的な知覚を担う。
       「悟性的な認識の基盤を構成する感覚的直感表象を受容する能力」 (カント『純粋理性批判』)

   *参考 「美」の本質・基準・価値を問う「美学 aesthetics」
   (古代=プラトン、近代=カント、シラー、シェリングヘーゲル etc.
    近代以降=ニーチェショーペンハウアーハイデガーメルロ=ポンティアドルノ etc.)

  アリストテレス形而上学』による学問の基礎分類。
  →「テオリア(観相)の学」=神や自然を観相。
    「プラクシス(行為)の学」=人間の行為の全般を考察。
    「ポイエーシス(制作)の学」=詩人や職人の表現技術を考察。

2.詩的創作(芸術)の欲求原理とは

  ・詩的触雷の体験/原風景(契機)
  ・自然の神秘的驚異・畏怖
  ・普遍的なものへの触手/「詩 Poesie」「美」の探究
  ・日常からの超越欲求
  ・ロマン派的「憧憬」原理
  ・世界発見・拡大の欲求
  ・20世紀近代化世界における人間疎外への疑念(契機)

  上記考察とともに、感受―投企―技術(テクネー)のエレメントを解説。

3.詩をめぐる言葉――創作と衝動について

  哲学・思想および芸術家の言葉を引用解説。
  (イヴ・ボヌフォワ、ポール・クローデル、ジャン・コクトー、ウニカ・チュルン、
  ジョン・ケージ、瀧口修造大手拓次平出隆、フーゴ・バルetc.)


■第4講 詩をめぐる言葉(3)詩学について

1.「詩 Poesy」の本質論としての「詩学 Poetics」

  「詩 Poesy」を「文学 Literature」から「人文科学 Humane studies」へ

  ・「人文科学」=人間本性(human nature)を研究する学問。
  ・アリストテレス詩学』(文学・劇)をひとつの起点として、
   「文学」として発展した「詩」の歴史
  ・それ以前の歴史として存在する、「詩」の発生世紀、「詩的な時代」
  ・近代世界以降の「詩的」感受性・創作者意識のありよう
  ・「詩的 Poetic(al)」「詩性 Poesy」の本質とは何か
  ・生の力学としての「詩 Poesy」と「詩学 Poetics」
  ・「詩的」体験、詩的現象の検証、客観化
  ・「詩的」感受性、詩的感官(官能、感性)の属性
  ・「詩的」想像力、創造性とは何か

2.「詩学」の一般的概念のひろがり

  ・文学における「詩学 Poetics」(詩法と詩論)
  ・「言語芸術」論としての「詩学
  ・ロシア・フォルマリスム(構成主義)と言語学による「詩学
  ・近年の「比較詩学
  ・芸術全般、社会科学にみる「詩学

  上記項目について、資料引用解説。

3.詩をめぐる言葉~「詩学 Poetics」について

  外山卯三郎『詩学概論』(1929)より
  ロラン・ド・ルネヴィル『詩的体験』(1938)
  エーミール・シュタイガー『詩学の根本概念』(1946)より
  木原孝一(『人間の詩学』1974)より
  ロマン・ヤコブソン『詩学』「詩とは何か?」(1933‐1965)より

4.「詩学 Poetics」はどうあるべきか

  ・詩の本質/原理/規範について
   (散文的/詩的、自己表出/超越論的自己表出、精神/自然世界)
  ・ヒトの世界感受意識、存在学・認識論の根底
   (精神/自然、自我/他者)
  ・精神と自然の交感の問題
  ・精神 - 言語 - 自然(世界)の相関性
  ・「言語芸術」(=文芸学)と「詩学 Poetics」
  ・「詩学 Poetics」と「美学 Aethetics」

  哲学・思想および芸術家の言葉を引用解説。
  (ポール・ヴァレリー、イヴ・ボヌフォワ、マルティンハイデガー
   ハンス=ゲオルグ・ガタマー etc.)


■第5講 芸術作品にみる「詩的」なるもの~現代美術・映画・写真

1.Lyrical と Poetical

  ・Lyric=叙情詩(的)、Epic=叙事詩
  ・情緒―〈感情〉emotion(s); feeling(s)、〈雰囲気〉an atmosphere; a mood
  ・心象 ― an image; a mental picture、an idea
  ・visible/invisible
  ・Poetic(al)=詩的
   (詩[韻文]の、詩的な、詩趣に富む、詩的能力・感性に恵まれた、
    詩にうたわれた、〈事・物が〉詩の題材としてふさわしい

2.現代美術作品にみる「詩的」なるもの(視覚芸術)

  現代の視覚芸術からの試論
  (詩的印象・発見の表出として―感受~表出、詩的方法として―投企、待機)

  ・ジョセフ・コーネルのコンポジション作品とその詩性
   (「永遠の一日」と幼年の眼界、詩的モチーフと詩的構成)
  ・ジョン・ケージの版画作品とその詩性
   (「チャンス・オペレーション」と偶然への自己投企、一つの詩法として)
  ・加納光於のカラー・インタリオ作品とその詩性
   (色彩・形象の運動と一閃への投企)
  ・野中ユリのコラージュ、オブジェ作品とその詩性
   (自然界、自然物質界との心象交通、コラージュという詩法)
  ・村上勝の造形作品とその詩性
   (詩的心象の造形的表出)

  上記、作品集閲覧とともに解説。

3.映画作品にみる「詩的」なるもの

  『モンド』“MONDO”Tony Gatlif, 1996
  『青いパパイヤの香り』“Lodeur de la Papaye Verde”Tran Anh Yung, 1993
  『ボイス・オブ・ムーン』“La Voce della Luna”Federico Fellini, 1990
  『ベルリン天使の詩』“Der Himmel u(¨)ber Berlin”Wim Venders,1987
  『リバーランズ・スルー・イット』“A River Runs Through It”Robert Redford,1992
  『新学期操行ゼロ』“Zero de Contidute”Jean Vigo, 1933
  『ミツバチのささやき』“El Espi(´)ritu de la Colmena”Victor Erice,1973

  上記映像の一部と引用文とともに解説。

  *参考 「映像詩の宇宙」金子遊(思潮社現代詩手帖」2012年03月号より連載)
      「gozoCine―キセキ」吉増剛造

4.写真作品にみる「詩的」なるもの

  「想像上のLand's berry」flowinvain 写真詩論より

  ・ゲルハルト・リヒター「Atlas」シリーズ
  ・アンドレ・テルケス「Distotion No.40」
  ・アンドレ・テルケス「Polaroids」 他

  「詩的写真」と「詩的」なるものについての論考を引用解説。


■第6講 人文諸学における「詩的」なるもの~哲学・芸術学・言語学・心理学ほか~

1.文社会系諸学における「詩」の位置づけと歴史

  「詩性」概念の抽出を前提として、
  人文諸学と「詩学 Poetics」と相関性、「詩学」の位相考察をふまえて。
  「詩」と「詩性 Poesy」に関連する研究が含まれる学術細目を把握。
  「人文社会系細目表」より。
  (文学における「詩想」「詩性」概念は別講とする)

  (人文学)
  ・哲学より―哲学・宗教学・思想史・美学/美術史
  ・芸術学より―芸術学・美術史・芸術一般
  ・文学より―日本文学・英米/英語圏文学・ヨーロッパ文学・各国文学/文学論
  ・言語学より―言語学日本語学
  ・文化人類学文化人類学・民俗学
  (社会科学)
  ・心理学

2.哲学――存在論・ドイツ観念論・美学・現象学・「生の哲学」・精神科学

  ・存在論 ontology = on(存在するもの)+logos(理論)
   (アリストテレス「第一哲学」~
   ハイデッガー存在論の「認識論から存在論へ」という新局面へ)
  ・ドイツ観念論 der deutsche Idealismus
   (カント以降の「美学」と「詩」の領域に重要な論考を展開)
  ・美学 aesthetics
   (「感性学」としての美学、美と芸術の本質・根源を問う論考。
    バウムガルデン、カント、シェリングヘーゲルハイデガー
    フーコーデリダドゥルーズ、リオタール、バルト等の現代美学)
  ・精神科学(ディルタイ
   (『精神科学序説』『体験と創作』『世界観学』などの主著にみる、
    「詩」と「創造力」、根源的人間像を問う論考)
  ・現象学フッサール
   (世界と存在者自体の意味や起源を問題とする「現象学的方法」。
    「純粋意識」「超越論的意識」等の概念~フランス現代思想の現象学運動へ)
  ・「生の哲学」 Lebensphilosophie
   (近代以前の「人生哲学」~シュレーゲル等のドイツ・ロマン主義
    ニーチェキルケゴール等の思想~ディルタイジンメル
    ヤスパースハイデガー等による再評価。詩的精神の思潮として)

3.芸術学における「詩的」なるもの

  ・芸術学――美術史、音楽史、演劇学、映画学などを含む

  視覚芸術、映像、音楽、舞踏などの作品を対象とした「詩的」考察の事例を解説。

4.言語学における「詩的」なるもの

  ・言語学――人類が使用する言語の本質や構造を科学的に記述

  ソシュール、ヤコブソン、ジュネットクリステヴァ、シクロフスキー等の 「詩的」言語の考察を取り上げて解説。

5.心理学における「詩的」なるもの

  ・「精神分析学」(フロイト
   (20世紀以降の文学・芸術に広く影響した「無意識の哲学」)
  ・「深層心理学」(ユング
   (「心・魂(Psyche)」「心の機能」の類型にみる、「詩的」感受機能の可能性)

6.民俗学における「詩的」なるもの

   古代人類の文字、壁画、精神生活、文明黎明期のヒトの精神と自然...
   祭祀、歌、踊り、呪文、「詩」および「詩的言語」の源流...
   書く、描く、作るというヒトの想像・創造力の根源...

   レヴィ=ストロース柳田國男折口信夫鎌田東二他を参考。

 

■第7講 芸術の書物史/書物の芸術史

1.文社会系諸学における「詩」の位置づけと歴史

  文字以前から書物の誕生

  ・文字以前――記憶する、語る。
   書物以前――彫る、刻む、描く、残す、伝える/記号を使って書く=文字。
  ・文字=情報を蓄え、空間的あるいは時間的に離れた人間に伝える方法。
   書物=紙の発明以降、複製(写書)して「知識」を記録・伝達・蓄積するもの。
  ・手書き写 ―木版本―木活字本―印刷術・製本術の発明。
  ・書物のはじまり――西洋・東洋ともに教会・寺院による「経典」。
            信仰=知、教会・寺院=図書館、印刷所。
  ・複製目的の版画は美術として残った→情報と美術(作品)が区別された歴史。

  印刷術誕生以降の書物の歴史

  ・1455年、世界初の活字印刷本『グーテンベルク聖書』完成~
   ~ヨーロッパに印刷技術普及~1700~1800年代、英仏で彩色挿絵入り本隆盛~
   1820年頃、産業革命に伴う機械化、量産・流通・消費の時代へ
  (日本)
  ・770年、世界最古の印刷物とされる『陀羅尼経』(木版)~
   1630年頃、初期木版多色刷り本の登場・普及(美術的書物)~
   1850年頃、木版多色刷りの挿絵入り和本の隆盛~
   1910年頃、活字印刷・並製本普及~出版の近代化の始まり。

  → 書物の権威と神聖さが失われていく近現代出版の歴史。

2.芸術の書物史/書物の芸術史

  「詩」と芸術が「書物の歴史」を変えてきた、作ってきた歴史。
  「書物の歴史と変遷――芸術運動を中心に」(ヨーロッパ/日本)一覧表により解説。

  ・詩篇、聖典、時祷書等の手書き写本――神の栄光を示す装飾。
  ・中世の装飾写本――装飾画家による美術品。
  ・木版挿絵入り本、活字挿絵入り本――芸術家と挿絵。
  ・イギリス、プライベートプレス運動――文字、組版、装飾、印刷、製本の美術。
   (アーツ・アンド・クラフト運動、ウィリアム・モリス)
  ・フランス、美装限定本 Livre de lux ――ルリュール製本美術。
  ・イタリア未来派運動、ダダ、ロシア・アバンギャルド、シュルレアリスム運動
   ――言葉・詩の視覚的表現の探究とアーティスト・ブック。
   →テキストと画の主従関係の交差・越境の歴史。
  ・ドイツ、フルクサス運動―――ブック・オブジェ、リーブル・オブジェ。
   →本と彫刻・造形芸術が越境した歴史。

3.詩と芸術における書物

  書物における「詩」と「詩画集」の特別な意味

  ・全体でひとつの造形芸術としての書物
   (詩、言語芸術、詩性の肉体化・視覚化――作品としての書物、
    造形・視覚芸術――美の蓄積としての書物/作品としての書物)
  ・日本の詩書、プライベートプレス、芸術出版のありよう
   (「アイデア」354号「日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本」
   編集=郡淳一郎、参照とともに)
  ・「官能 Sensibility」としての本/「精神美 Spirit」としての本
   (プライベートプレス制作の書物観賞とともに)

‐以上‐